水曜日, 12月 27, 2006

劉 文兵(リィウ・ウェンビン)著「中国10億人の日本映画熱愛史」

セミナーに中国からの優秀な留学生が居るせいか、中国人研究者の日本での研究業績にただならぬ興味が沸いている。先に紹介した王 敏(ワン・ミン)さんやこの本の著者劉 文兵さんなど、実に多くの中国人研究者が日本を本拠として研究や文筆活動をしている。そして、実に素晴らしい文化論を展開しており、実はただならぬ危機感さえ抱くようになった。何故なら、日本人研究者で彼らのような比較文化論を展開している若手研究者がそれほど見あたらないからだ。
 この本では、文革後の中国の情報政策を横目で見ながら、日本映画の中でも「君よ憤怒の河を渉れ」「サンダカン八番娼館 望郷」「愛と死」などの名作が、文革後の後遺症にさいなまれる中国社会の民衆の鬱憤をはらす、言わばガス抜き作用として影響力をもっていたかが語られている。そして、文革後遺症を乗り越え、改革開放政策の中で、民衆の意識を前向きにし、民意にある種の方向性をもたせようとした中国指導部の情報政策との関わりや歴史を描き出している。その部分が、実に面白い。
 しかし、この著者の語り口は熱い。年少の頃、日本映画の内部上映会(党の中枢メンバーによる試写会)に潜り込もうとして、偽チケットまで創って見に行ったというのだから、その日本映画熱には脅かされる。そして、その日本で映画論を勉強し、このような書籍までも著すまでになったのだから、その意気込みと本人の夢たるや、猛烈なものを感じる。一冊の書籍の中に、まさに「熱」が籠もっているのだ。文化を語る学徒は、これくらい熱くなくちゃならないという、見本である。

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