木曜日, 12月 14, 2006

安田喜憲編「龍の文明史」

国際日本文化研究センターの共同研究をまとめたものである。中国原産の「龍」は馬や鹿や豚などから体位各部位を借りた融合動物だった。その起源は、中国にあっては北方文化からのもので、超越的秩序を重視していた。一方、南方の長江文明に観られる太陽、鳥、蛇を奉る文化は、再生と循環のコスモロジーを象徴し、現世的秩序を重視する文明だった。
 このように、編者自らがイントロダクションで宣言しているように、龍がいかに歴史の中で、長江文明的な再生と循環の自然観や原生的秩序を重視する文明を追い詰め、北方的文明観を確立していったかを、8名の研究者と共に著した書籍である。
 私は、それらの中で、もう一つのダビンチ・コードともいうべき論文に大きな興味をいだいた。それは、モナリザのバックの背景が、中国山水画の二つの掛け軸で出来ており、レオナルド・ダビンチは中国の美術、特に当時ヨーロッパに流通し始めていた中国磁器に描かれた中国絵画をしきりに勉強していた現れだと説明した田中英道さんの論文である。また、ヨーロッパのドラゴンは翼を持っているが、中国の龍には翼が無いのに、ダビンチは自らのスケッチで、翼が無くて四つ足をもつドラゴンを描いていることなどを紹介している。
 そこで思った。ルネサンス期のヨーロッパの人々において、中国、あるいは、日本を含むアジアのイメージはどのようなものだったのか、ということである。ヨーロッパではドラゴンは、正邪の区別で言うと、邪の側であるのが常だが、龍は、悪さもすれば地球も助ける。正邪同居の存在だ。
 この書籍は堅い研究報告書ではあるが、龍を巡る歴史探索のイメージトレーニング書籍である。

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