火曜日, 12月 05, 2006

佐藤優・手嶋龍一共著「インテリジェンス 武器なき戦争」幻冬舎新書

日本を代表するスパイ(?)のお二人による、日本の情報戦略を点検するための対談である。インテリジェンスとは、外交局面における国益を考慮して、諸外国事情に精通し、一度事が起こりそうになれば国家の行動指針となる情報評価を政府中枢にもたらす役割を担う人々である。佐藤氏はムネオ騒動で係争中であり、服役から娑婆へ戻ったばかり、かたや手嶋氏は、掴んだ情報をNHKでは発表できなくなって民間人となり、人気小説「ウルトラ・ダラー」を著した人である。
 そんな二人の対談は、インテリジェンス・オフィサーらしい伏線を縦横に巡らしての対談だ。二人ともそうとう狸を決め込んで、そうすることがその世界の安全を確保する上での常識的なあり方なのだという信念のもとに、ときに読者には、その意図する事例がどこにあるのか解らないような、曖昧模糊とした表現が各所に観られる。
 しかし、私事になるが、このところ手を出す書籍、書籍から読めと命じてくる書籍に、運命のような符合が出てくる。何かに繋がるいくつかの符合が、必ずと言っていいほど出てくるのには、驚きを通り越して、気味が悪くなる。それは、この夏の北京での博物館調査のころから続いている。
 私の父はハルピン学院の出身で、卒業後は、日ロ友好協会が後ろ盾したある学校の校長だった。そのハルピン学院とは、当時の日本外交の筋からすると、ロシア関係のインテリジェンス・オフィサー養成学校だったという、明らかな認識が示されていたのだ。佐藤氏も外務省の中で、そのような経歴の先輩たちから、先の大戦の前後のハルピン学院出身外交官たちが、バルト3国やロシア方面で、さまざまな活躍をしていたことを伝え聞いている。そのもっとも有名な外交官が、「命のビザ」の杉原千畝であるが、佐藤氏によると、当時の外交官は、インテリジェンス・オフィサーの側面が大きく、彼もその手の存在だったというのである。
 今夏の中国行きには個人的にはある一つのイメージを確かめたい気持ちがあった。それは、かつて親父が学生時代の一夏を潰して、馬でハルピンから北京まで旅したという逸話の原風景を観てみたいという思いだった。今となっては、ただ単なる若者の冒険心からの旅行だったのか、それとももっと特定の意図があったのか、聞けないわけだが、親父が旅した原風景を、一度は直に観てみたいのだ。
 この書籍の対談を読み、特に最後に出てくるロシア・スクールの話を読み進みながら、かつて存命時に言っていたことを思い出している。「パルピンにはもう一度行けても、ロシアには行けないな。ロシアへ行けば、俺のことを探り出して、監視されるだろうからな・・・」。子供のわたしには、全く意味不明だったのだが、ハルピン学院の素性を知り、なんとなく納得できる心境となった。

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