日本を代表するスパイ(?)のお二人による、日本の情報戦略を点検するための対談である。インテリジェンスとは、外交局面における国益を考慮して、諸外国事情に精通し、一度事が起こりそうになれば国家の行動指針となる情報評価を政府中枢にもたらす役割を担う人々である。佐藤氏はムネオ騒動で係争中であり、服役から娑婆へ戻ったばかり、かたや手嶋氏は、掴んだ情報をNHKでは発表できなくなって民間人となり、人気小説「ウルトラ・ダラー」を著した人である。
そんな二人の対談は、インテリジェンス・オフィサーらしい伏線を縦横に巡らしての対談だ。二人ともそうとう狸を決め込んで、そうすることがその世界の安全を確保する上での常識的なあり方なのだという信念のもとに、ときに読者には、その意図する事例がどこにあるのか解らないような、曖昧模糊とした表現が各所に観られる。
しかし、私事になるが、このところ手を出す書籍、書籍から読めと命じてくる書籍に、運命のような符合が出てくる。何かに繋がるいくつかの符合が、必ずと言っていいほど出てくるのには、驚きを通り越して、気味が悪くなる。それは、この夏の北京での博物館調査のころから続いている。
私の父はハルピン学院の出身で、卒業後は、日ロ友好協会が後ろ盾したある学校の校長だった。そのハルピン学院とは、当時の日本外交の筋からすると、ロシア関係のインテリジェンス・オフィサー養成学校だったという、明らかな認識が示されていたのだ。佐藤氏も外務省の中で、そのような経歴の先輩たちから、先の大戦の前後のハルピン学院出身外交官たちが、バルト3国やロシア方面で、さまざまな活躍をしていたことを伝え聞いている。そのもっとも有名な外交官が、「命のビザ」の杉原千畝であるが、佐藤氏によると、当時の外交官は、インテリジェンス・オフィサーの側面が大きく、彼もその手の存在だったというのである。
今夏の中国行きには個人的にはある一つのイメージを確かめたい気持ちがあった。それは、かつて親父が学生時代の一夏を潰して、馬でハルピンから北京まで旅したという逸話の原風景を観てみたいという思いだった。今となっては、ただ単なる若者の冒険心からの旅行だったのか、それとももっと特定の意図があったのか、聞けないわけだが、親父が旅した原風景を、一度は直に観てみたいのだ。
この書籍の対談を読み、特に最後に出てくるロシア・スクールの話を読み進みながら、かつて存命時に言っていたことを思い出している。「パルピンにはもう一度行けても、ロシアには行けないな。ロシアへ行けば、俺のことを探り出して、監視されるだろうからな・・・」。子供のわたしには、全く意味不明だったのだが、ハルピン学院の素性を知り、なんとなく納得できる心境となった。
マスターは、2019年3月末をもって四日市大学環境情報学部のメディア専攻の教授職を辞しました。科学雑誌Newtonの編集者にしてNY特派員、大学でのメディア教育、これらの経歴を活かしつつ、これからは情報工房伽藍の主催者として、引き続きメディア・ウォッチングを続けます。これからは特に、オンデマンド系について、こだわっていきたいと思います。
火曜日, 12月 05, 2006
佐藤優・手嶋龍一共著「インテリジェンス 武器なき戦争」幻冬舎新書
登録:
コメントの投稿 (Atom)
アマゾン・プライムのラインアップ構成、なかなか気が利いていると思います。このお盆の時期、見放題のラインアップに、「戦争と人間=3部作品」や「永遠の0」が出てきていましたが、それよりも良かったと思ったのは、「空人」です。エンターテイメント性は希薄ですが、これぞ名画といった作品...

-
左からNikon F2、Nikon F3+Moter Drive、 Canon EOS650、 そして2年前まで酷使していたNikon D70。まさに、退役軍人じゃないけど、ベテラン揃い。午前中、オフィスを整理していて、彼らを一堂に集めて、そろそろショルダーストライプを外して...
-
丸善! この書店の名前に引きずられて、遥か昔の、高校3年生(1969年)の秋を思い出した。高3の秋口になり、急に思い立ったように、旧国立大の東京教育大学を受験したくなり、過去の入試問題集をどうしても手に入れたくなった。福井市内の書店を探してもなく、お隣県の金沢にある丸善ならば...
-
今すむ伽藍の建物から北へ約400メートル行ったところに、我が生家と昔風の田舎屋敷がある。現在は借家として、福井大学の研究職をしている若いご家族に住んでいただいているのだが、先日、猫のみが大発生し、その駆除騒ぎが勃発。業者さんにのみ退治に出動してもらい、どうにか騒動は終焉に向かって...
0 件のコメント:
コメントを投稿