日曜日, 1月 14, 2007

梅田望夫・平野啓一郎対談共著「ウェブ人間論」新潮新書

「ウェブ進化論」の著者と京都大学在学中に「日蝕」で芥川賞を受賞した若き小説家平野啓一郎との対談集である。「文系対理系の対決か」との先入観のもとに読み出したのだが、両者ともインターネットが社会にもたらしてきた価値の変容の様を、一様に肯定的に認めることろから対談は始まっていた。
 私は梅田さんの「ウェブ進化論」を読んで、グーグル、アマゾン、iPodのアップルをはじめとするウェブ2.0時代の代表格たちが進めているネットを介した社会改革のその先にあるビジョンに「神の領域」を設定していた点を、論説の不備、ビジョンの不徹底と感じていた。また、グーグルの情報へのアクセスを誰もがたやすく、情報の価値をネットのアクセス統計から順位を定めるアルゴリズムを開発し、その目指すところは、「世界政府」のような存在になることだと解説した点に、疑義を持っていた。
 今回の対談を読む限り、そのような言葉を使った結果として、リアル社会が誤解したかも知れないポイントを、平野さんの限りない執念のような問いかけで、梅田さんの真意、より実態に近い説明が成されたように感じた。
 両者とも大変な教養の持ち主である。しかし、現在の50代以上の世の権威筋が対談する内容より密度の濃い議論が交わされており、その点について、この世代は実によく勉強しているのだと驚いてしまった。日本では90年代初頭にバブルの崩壊があり、丁度その時期に大学生活を送っていた75年生まれの平野さんは、はてなやミクシーの社長たちと同じ歳で、ともに社会に対して大きな閉塞感を背負わされた世代だ。そのような閉塞感から、方や小説家、文学者として、独自に自己世界を解放していった平野さん。方や、30代始め頃、日本ではだめで、シリコンバレーから考えていこうとして、向こうに移住した上田さん。両者には、いまの世界をより良くしたいという志が見受けられ、ネットで稼ぐだけ、小説で稼ぐだけ、ではないことが解り、これは新鮮だった。
 最終的に、ネットの進化で、人間はどのように変容していくのかということが最大のテーマになっている。両者とも、ある種の変容が出てくるに違いないと確信してはいるが、その具体像については語り切れていない。模索中であるという、その実像が示されており、ビジョン追究の途中段階として読むべきだろう。
 来週の日曜日午後9時からNHKスペシャルで「グーグル特集」がある。学生たちに勧めなくてはならない。

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