月曜日, 1月 15, 2007

安田喜憲著「龍の文明 太陽の文明」PHP新書

この本は、中華文明の象徴となっている龍の誕生から説き起こし、やがて寒冷化の気象変動の結果として龍をシンボルとした牧畜と畑作の文明(黄河文明)が、鳳凰と太陽をシンボルとする漁労と稲作の文明(長江文明)を衰亡させて中国の覇権主義、すなわち中華思想の核となってきたことを解説している。
 何よりの愁眉は、日本文明の危機を説いている第五章「東洋文明の復権」であろう。何故、日本の皇室は龍を受け入れず、菊を紋章としているのか。そして、過去にも覇権主義的な牧畜と畑作の文明による接触は有ったにもかかわらず、日本は長江文明の自然と一体となる発想をもった長江文明型の原理を採用してきたかが語られている部分である。その箇所を引用してみたい。
ー171pよりー 
 東アジアの稲作・漁労文明の中で変身した龍信仰は太陽や鳳凰とともに、
(1)自然への畏敬の念
(2)異なるものの共生と融合
(3)命あるものの再生と循環の世界観
(4)自然にやさしく生物多様性を維持
を現代にまで伝えている。この四つの稲作・漁労文明の世界観こそ二十一世紀の新たな東洋文明を構築するキーワードなのである。ー引用終わりー
 これに対して、牧畜・畑作の文明から生じているドラゴンは、覇権主義的で、環境をことごとく破壊し、人間の隷属化においてきた歴史を持っており、環境時代の世界がもっとも反省と修正を強いられている訳だが、これについても、見事なコンセプトを提示している。同じく、引用してみたい。
ー176-177pよりー
 このドラゴンを退治する世界観は、
(1)自然支配の世界観
(2)異なるものとの対決と不寛容
(3)直線的な週末の世界観
(4)森の徹底的な破壊と家畜以外の生物存在の拒否
 を現代にまで伝えている。この四つの世界観は、人間の幸せのみを考える人間中心主義を生み出して、はげしい自然破壊をもたらし、アニミズムに立脚した文明を邪悪な文明という名の下に歴史の闇の彼方に追放し、再生と循環を拒否する還元的な近代工業技術文明を構築した。ー引用終わりー
 そして最後に現在の中国との付き合い方について、国家レベル、民族レベルの話として、このままでは日本は中国の覇権主義的な文明に飲み込まれてしまい、それを嫌う民はボート・ピープルとなって太平洋に出て行かざるを得ないのではないかと愁いている。丁度、黄河文明に駆逐された長江文明を担っていた諸族が中国南方へ、台湾へ、あるいは、長江から離れた高地へと移住を余儀なくされたのと同じように、日本も中華覇権主義に犯されてしまうと危惧しているのだ。この部分、説得力があるだけに、戦慄を覚えてしまった。

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