日曜日, 1月 21, 2007

安田喜憲著・梅原猛/河合隼雄監修「大河文明の誕生」角川書店

昨年の11月頃から安田先生の書籍を集中的に読破してきた。いまでは文明論者として、さまざまな切り口を用意して西欧型文明論へ挑戦し、反省を求めている。例えば、中国原産の「龍」を軸とした展開や、縄文文明に代表される「森の文明」論や、非西欧社会ではいまだに生活に息づいているアニミズムの復権など、その論旨は自由奔放で、明解で、読んでいて快感さえ感ずるほどだ。
 この書籍は911同時多発テロの前年にあたる2000年に出版されている。日本のインテリジェンスを代表する二人の碩学の優が監修している。二人とも、国際日本文化研究センターの前所長、当時の所長という布陣だ。それだけに、この本の持つ価値は大きい。安田先生が環境考古学を提唱し始めたのは80年代の始め頃だった。湖沼の土壌に堆積した花粉などの化石の分布から、2万年前から現在までの気象変異を解析し、それも地球規模でその変異を解明し、いまから約5700年前の寒冷湿潤化が、メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明を引き起こしていたこと明らかにした。寒冷湿潤化が、草原で遊牧していた民を大河流域で農耕する地域へと引き寄せ、交易や摩擦の末の支配によって、強力な支配権をもった都市へと変貌し、これが文明となったことを、実に解りやすく証明している。
 しかし、ここで問題になるのが、従来叫ばれていた四大文明のうちの黄河文明なのだ。黄河文明は、この5700年前の世界同時的文明化より約1000年遅れており、その意味が問われていた。その答えは、森の文明であり稲作と漁労によって生計を立てていた長江文明の発見によって、見事仮説は事実となる。さらにこの発見から、青森の三内丸山遺跡に代表される森の文明の同時性まで論を進めることを可能にしている。この書はそこまでの道程を、まるでミステリーを共に説き進むようなスリリングな展開で記述されており、一気に読み進むことが出来た。学術的内容を一般市民に普及する目的で書き上げられた書籍ではあるが、謎解きに夢中になる子供のように読んでしまった。最近、これほど知的興奮をした書籍が無かっただけに、読後の満足感は素晴らしいものがある。言い伝えとされる「ノアの箱船」の史実さえ、環境考古学的には実証されるのだ。実に面白い。
 私は出版文化論で、文字を使い出した四大文明を必ず取り上げている。しかし、これまでの講義では文字発明の項目へ進む前に、必ず無文字社会の存在を提起して、文字を持たなくとも社会や文化を継承し平和にくらしてきた諸民族の歴史があることを伝えてきた。文字というツール以外にもメディアは存在し、ある概念や空間認識をメディア化している事実を教えている。また、先史時代と歴史時代という対比で、自ら文字を使用して歴史を書き残してきた文明化された社会と、そうではない時代とを意識付けしてきた。このような解説手法に、もう一つの強力な論点を教えていただき、実は、嬉しくてならないのだ。やはり科学的なデータを示しての論議には説得力があるという点では、西欧由来のサイエンスは実に頼もしい。
 安田先生の環境考古学的発見は、即、地球史発見であり、その地球史に基づいて諸文明、地域の歴史を再検討すれば、新しい地球の歴史認識に辿り着けるだろうことは間違いない。まれにみる暖冬を喜ぶその先に見えている巨大な環境的試練を想像するとき、この書が提言する西欧的歴史認識からの脱却と新しい環境主義から導き出される人類の反省するべき課題が、待ったなしの緊迫感で迫ってくる。
 蛇足だが、安田先生の業績を勉強するなら、この書籍から始めるのが最も適切であるとの感想を持った。学生たちに勧めなくてはならない。

0 件のコメント:

   アマゾン・プライムのラインアップ構成、なかなか気が利いていると思います。このお盆の時期、見放題のラインアップに、「戦争と人間=3部作品」や「永遠の0」が出てきていましたが、それよりも良かったと思ったのは、「空人」です。エンターテイメント性は希薄ですが、これぞ名画といった作品...