日曜日, 6月 03, 2007

徳川恒孝著「江戸の遺伝子ー世にも不思議な江戸時代」

徳川宗家第18代当主が解説する江戸時代。確かに不思議な語り口の本だった。元日本郵船社員として世界の各所に駐在した見識を江戸時代を構成する社会問題、文化のあり方、自然環境感を交互に交えつつ、日本的なるモノの特質を易しく解説している。その先に見えているのは、未曾有の環境問題であり、人口爆発の後に来る食料自給問題であり、心のあり方としての社会論である。
 環境学者安田先生の主張にも通じる側面を持つ話題としては、水田の収量を確保にかけた江戸の農業政策がいかに優れており、同時期のヨーロッパには見られない高品位の政策を江戸幕府はすすめていた話である。里山を綺麗に、丹念に整備し、灌漑用水を整備させ、これにかかる費用は藩の責任によって行わせた話などが端正に綴られており、気負う間もなく読了してしまった。戦国の世から中庸で平和な国家への変身に、いかに徳川は執政を司ったかを、品良く語られており、その語り口は、あくまで上品である。文章に、品位がにじみ出ており、さすが当主様だと、感心してしまった。
 史実として驚いたことは、ペリーの浦賀来訪を、長崎に出入りするオランダ人の幕府ご用係からすでに知っており(アメリカのミッションが来航し、捕鯨船の薪炭、食料飲料の補給基地として、日本に開港を迫る目的で)、これまで歴史を語るときにあたかも「突然浦賀沖」に出現し、日本国中大騒ぎになったがごとくの言い回しになっているが、これは謝りであることが示されており、実に面白い。
 あるいは、江戸時代が進むと武士階級は経済的に疲弊していったが、農工商は逆に潤い、自由闊達な社会へと社会が安定していった話などは、なるほどと思ってしまった。さらに、江戸時代は、全国津々浦々で私塾や藩校が盛んに教育を進めており、ヨーロッパの中世から近世にかけてのように、階級による教育の遮断的な状況が無かったことが、近代日本となり、欧米列強と即座に肩を並べうるキャッチアップが可能になった素地だったことも述べられており、納得である。
 現在、江戸の教育制度についての書籍をアマゾンに発注しており、しばし、江戸物で行こうと考えている。

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