塩野さんのルネサンス著作集7巻のうち、のこるは、「ルネサンスの女たち」と「神の代理人」だけとなった。ヴェネツィアの一千年を通観する歴史概説書なのだが、そこは小説家としての興味から歴史を知ろうとする塩野さんらしいさまざまな逸話に彩られた実に読み応えのある800ページだった。
蛮族の襲来に恐れた人々が馬に乗って襲って来れないラグーナ(潟)に立てこもったことからヴェネツィア共和国は始まっている。中世時代のヨーロッパは専制君主国が林立した時代だったが、ヴェネツィアは共和制を取り、政務をボランティアで行う一種の名誉職としての貴族たちが国会と元老院を運営し、さらに現在のアメリカ合衆国の国家安全保障委員会とCIAを兼ね備えた十人委員会なる国家最高決定機関を持ち、さらに国家の顔としての元首(ドージュ)を置いていた。しかも、元首にすら専横させないためのルールを張り巡らして、周知を集め、方針決定の精度をとことん追究するシステムを結実させていた。
この政体のお陰で、通商国家として中世最大の経済大国として地中海世界に君臨するようになったのだ。この時期イタリア国内は、大小さまざまな都市国家の時代だったのだが、このような共和制を惹いたのはヴェネツィアだけだった。その独立性は、他国がことごとくヴァチカンへ擦り寄るなか、一定の距離を保ち、多文化を受け入れ、言論の自由を保障し、おおらかな気風を保ち続けていた。その半面、共同体への参加、奉仕、貢献を、子供の頃から徹底してしつける側面も持ち合わせていた。
男子は少年時代から交易船の船員として海での仕事や戦闘要員としての訓練が義務づけられ、この訓練期間が終われば、貿易商人として地中海を股にかけた商業活動に従事し、壮年になっては本国に腰を落ち着けて国政に参加する。財をなし、貢献度の高い人は元老院メンバーとなり、無給で国政に参加を義務づけられていた。なんと、無給で。しかも、一朝事あらば、戦費負担は国民に先駆けて供出したというのだから、この時代のヴェネツィアの貴族たちは、ローマ帝国の戦士たちの伝統を引き継いでいたことになる。
この物語は「ローマ人の物語」に先だって著述されている。その意味では、逆順で読んだ私には、「ローマ人の物語」で示された塩野史観のプロトタイプを観る思いだ。触れられている話題は、街の風俗から国政の最高決定のプロセス、外交に先立つ情報収集のためのスパイ活動や、実際にあった戦争戦記、それも海陸双方での戦いの始まりから顛末までなどなど、多岐にわたっており、息のつく暇もなく、没頭して読みまくった。面白い!
さらに、出版文化論の話題まで頂戴してしまった。何故、ヴェネツィアは15世紀から18世紀にかけてヨーロッパの出版界をリードし続けたのか、その起因はなんだったのか。実に有り難い勉強をさせてもらった。
蛮族の襲来に恐れた人々が馬に乗って襲って来れないラグーナ(潟)に立てこもったことからヴェネツィア共和国は始まっている。中世時代のヨーロッパは専制君主国が林立した時代だったが、ヴェネツィアは共和制を取り、政務をボランティアで行う一種の名誉職としての貴族たちが国会と元老院を運営し、さらに現在のアメリカ合衆国の国家安全保障委員会とCIAを兼ね備えた十人委員会なる国家最高決定機関を持ち、さらに国家の顔としての元首(ドージュ)を置いていた。しかも、元首にすら専横させないためのルールを張り巡らして、周知を集め、方針決定の精度をとことん追究するシステムを結実させていた。
この政体のお陰で、通商国家として中世最大の経済大国として地中海世界に君臨するようになったのだ。この時期イタリア国内は、大小さまざまな都市国家の時代だったのだが、このような共和制を惹いたのはヴェネツィアだけだった。その独立性は、他国がことごとくヴァチカンへ擦り寄るなか、一定の距離を保ち、多文化を受け入れ、言論の自由を保障し、おおらかな気風を保ち続けていた。その半面、共同体への参加、奉仕、貢献を、子供の頃から徹底してしつける側面も持ち合わせていた。
男子は少年時代から交易船の船員として海での仕事や戦闘要員としての訓練が義務づけられ、この訓練期間が終われば、貿易商人として地中海を股にかけた商業活動に従事し、壮年になっては本国に腰を落ち着けて国政に参加する。財をなし、貢献度の高い人は元老院メンバーとなり、無給で国政に参加を義務づけられていた。なんと、無給で。しかも、一朝事あらば、戦費負担は国民に先駆けて供出したというのだから、この時代のヴェネツィアの貴族たちは、ローマ帝国の戦士たちの伝統を引き継いでいたことになる。
この物語は「ローマ人の物語」に先だって著述されている。その意味では、逆順で読んだ私には、「ローマ人の物語」で示された塩野史観のプロトタイプを観る思いだ。触れられている話題は、街の風俗から国政の最高決定のプロセス、外交に先立つ情報収集のためのスパイ活動や、実際にあった戦争戦記、それも海陸双方での戦いの始まりから顛末までなどなど、多岐にわたっており、息のつく暇もなく、没頭して読みまくった。面白い!
さらに、出版文化論の話題まで頂戴してしまった。何故、ヴェネツィアは15世紀から18世紀にかけてヨーロッパの出版界をリードし続けたのか、その起因はなんだったのか。実に有り難い勉強をさせてもらった。
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