月曜日, 11月 03, 2008

興奮の余韻の中で……日刊スポーツに見るジャーナリストの見識

昨日の天皇賞は確かに歴史に残る名勝負だった。しかし、多くのファンに一抹の疑問を残しそうな状況だったことも確かだ。その疑問とは、実際にテレビ観戦をしていた人々や東京競馬場で観戦していた人々の中には、ダイワスカーレット優勢と見た人々が多かったからだ。実際には、精密な写真判定の基に下された裁定だった訳だが、その裁定の内容を知らない一般の人々には、「ひょっとして、実際はダイワが勝っていたのでは……」という思いが強く残る。そんな疑念を払拭する記事が、今日の日刊スポーツに載っていた。この記事を読み、「そうそう、こういう記事をつくれば、競馬ジャーナリズムが健全化する。さすが日刊スポーツ!」との、強い思いに駆られた。
 その記事には、見開き全面にゴール瞬間の3頭が映し出されている。その右脇には、JRAが公表した判定写真が掲載されており、さらに、それらの写真の中間に位置するところに、岡本記者の写真判定に対する解説記事が載っている。私が注目するのは、この解説記事なのだ。
 ゴール・ライン上、やや上方から撮影された判定写真に写っているダイワスカーレットの体躯、特に後肢とお尻部分は、明らかにウォッカより前に出ており、写真全体から見る雰囲気としては、ダイワ優勢に写る。しかし、前駆部分、特に頭からハナ先にかけては、まったく一線上にあり、どちらが優勢か素人目には分からない。一方、体躯が詰まった感じになっているダイワと比べると、ウォッカの方は身体を伸ばしきっており、全体的に流れた感じに写っている。そして、その訳を見開きにしたゴール写真の映像を基に、読者に分かる形で岡本記者の解説コラムは記述されていた。
 つまり、ゴール直前の2完歩ほどは、鞍上武豊騎手は、手綱をゆるめ、自分の頭をたてがみに埋めて、ウォッカの自由度を確保しようと努めている。一方、ダイワの安藤勝巳騎手は、最後までハミを取らせて、ウォッカ、デープスカイを差そうと取り組んでいる。その結果、ダイワの方は、首を上げ、体躯を収縮フェーズに持ち込もうとする瞬間で、ゴールを切っていたわけだ。その結果が2センチのウォッカ優勢、先着1位を確保したという解説だった。
 ハナを切り、終始先頭でレースを引っ張り、一度はウォッカとデープスカイに差されながらも差し替えしのために盛り返したダイワの粘りと根性は、見事という他ない。そして、最後はウォッカの能力、気性を信じ、「突き抜けろ!」とハミを外し気味に馬を信じた武豊騎手の技量に、ただただ、感銘するばかりだ。裁定後、二人のジョッキーはさわやかな握手を交わしたそうだが、そんな瞬間も観たかったな!
 一夜明け、冷静になると、レース戦略上の興味が幾つか沸いてくる。逃げるダイワスカーレットを斜め後方から2番手で追走したトーセンキャプテンはウォッカと同じ角居厩舎の馬だ。鞍上はペリエ騎手。コーナー通過順を見てみると、長い直線に入る第4コーナーまで、ダイワを追い詰め、追走している。これは、角居厩舎の作戦だったのでは? ピッタリ追走されれば、ダイワも鞍上アンカツさんも、相当に心理的プレッシャーを受けることは想像に難くない。つまり、第4コーナーまで追走し、ダイワを消耗させる作戦だったとしたら、よく考えたと思うのだ。
 そう思える理由がももう一つある。スタート直後、一枠右隣のトーセンキャプテン(ウォッカは14番、トーセンキャプテンは15番)は、ウォッカの動きを邪魔しないようにするするとウォッカを抜いて、ハナを奪おうとするダイワの右後方に上がっていった。この動きをウォッカ武は、平然とやり過ごしているように見えたのだ。あらかじめ考えられていた予定調和へ向かうように。つまり、ダイワを疲弊させるためのラビットとしての役割をトーセンキャプテンが担っていたのではないかという推理だ。
 だとしたら、角居調教師の作戦勝ちとも言えるのではないだろうか。ダイワスカーレットの松田国英調教師は、角居勝彦調教師の師匠であり、この師弟対決も語り継がれるだろう。その松田国英調教師は、「おれもウォッカみたいな馬を調教してみたい」と、独特な言い方で相手を讃えたらしいが、7ヶ月休養明けで大舞台に出走させる手腕と自信からすると、負けたとは思っていないはずだ。
 ファンとしては、ウォッカVSダイワスカーレットの再戦をもう一度見たい。もちろん、その場合も私はウォッカに賭ける。安田記念に引き続き、2度もG1的中に導いてくれたアイドルを、そう簡単には見限れない。それにしても、口取りに現れたウォッカの泰然とした気品ある勇姿には惚れ惚れとするではないか。「本当に、女の子なの?」と思ってしまう。

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